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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

重吉は大きな目からぽたぽたと涙をこぼした。

かやの死をきっかけのように子供たちの上にも異変がつづいた。長男の隼太は長男であることの重石を重石以上に考え、世の中のすべては金で解決できると思いつめ、先生ではうだつが上らぬと、三年間待ってくださいといって東京の法律学校へ入った。夜間は相変らず小学校へ勤め昼間は学生である。昼夜の心身の酷使はてきめんで、三年待たぬ間に隼太は骨になって若い嫁に抱かれて戻ってきた。四つになる男の子をつれた嫁はやがて生家へ帰っていった。縁の薄かった子だと重吉もいねも淋しがった。

三女のフサエは魚問屋の息子に望まれて半ばさらわれるような形で、姉のカヤノよりも先に嫁入ったのであったが、一年もたたぬ間に呆気なく死んでしまった。

カヤノの婚家は村の網元をしている家であった。いねの兄がむりにまとめた縁であった。徳市というその婿にはちょっと頭をひねりたい気持が重吉にもいねにもあり、カヤノは初めからてんで受けつけようとしないのを、家もない日向の娘ではよい嫁入口はあるまいといわれればそれもそうかと親たちがまずその気になり、遠い親戚という義理もあってむりに説き伏せてゆかせたのであったが、カヤノは三日にあげず泣いて帰った。