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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

一一

樒の葉が一枚浮いていた。

一一

「人も代りゃ世も代る。昔や日向といや派手なもんじゃったぞい。餅ついたって村一、子を生んだって村一、それがさあ、今じゃ下子二人じゃないかいや」

重吉とは兄弟交際の友吉爺さんは自分の家でいっしょについた正月の五升の餅を届けに来て、実枝に向って、そう今昔の感を洩した。

父親に死なれたクニ子と実枝は、よりどころを失った蔓草のようにお互いにからみあって暮しているうち、歳月はいつか二人の芽を別々の方向へのびさせていた。戸籍上の家督は長男の隼太の子供が継いでいるとはいえ、その子は再婚した母親につれられて、九州の三池に暮しているし、長じてふたたび小豆島に帰り、祖先を祀ることになるかどうかは分らない。結局実際の世継としてのさまざまのわずらわしいしきたりは、クニ子の肩の上にのっかる結果となった。今は実枝がいておおかたの冠婚葬祭には家としての名代をつとめているとはいえ、やはり家長であるという責任観念は律儀なクニ子をますます律儀にさせ、身を守り、家を守ってゆくという風であった。それに反して実枝の方は、いわば肩の荷が下りた身軽さである。縛るものの何もない自由さで実枝はのびのびとなり、匂うような若さで身も心もまるまると太っていった。