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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

デパートの食堂に入り、洋食を注文した。見知らぬ人々に交って馴れない手つきでナイフやフォークを動かしているうち、実枝はいいようのない侘しさに襲われた。恭平にまで黙ってでてきたことも心にとがめられ、クニ子が今ごろどんな思いをしているだろうと考えると、実枝は決然と椅子を立ち上った。その日の船で村へ帰ると、クニ子が提灯をもって渚に出迎えていた。二人はきまりの悪い笑顔を交した。

「知らしもせんのにどうして迎えに来てくれたん」

実枝がそうたずねるとクニ子は、

「戻る思たもん」という。

暗がりの道にさしかかるとクニ子は提灯を前にさしだして足許を照し、

「昨夜はなあ実枝、生れて初めて独り法師になった。あんまりえいもんじゃないな」

「えいもんじゃないなあほんまに」

実枝もおうむ返しに答えながら、提灯の火かげで濃くくまどられたクニ子の顔を見た。長らく会わなかった娘が戻ってきたとでもいうような安心の顔つきであった。道が狭い所になると二人並んでは通れない。クニ子は先に立って後ろの実枝にあかりをさしだし、横向きで歩いた。

「姉やんに時計買うてきたんで」

実枝は自分の今度のやり口を詫びるかのようにいうと、