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とうきょうじんのだらくじだい
東京人の堕落時代
杉山 萠円
「九州日報」1925(大正14)年1~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,226 字 · 247 页
おとっつぁんと呼ばれても文句は云えなかった。
記者は眼をパチパチした。
何だか可笑しくなりながら、相手の鳥打帽の下にキラキラ光る二つの眼を見た。虚勢を張っていたせいか、その光りがだんだん怖くなった。記者は静かに帽子を脱いで、わざと福岡弁で云った。
「共同椅子だすけん……よござっしょうもん」
鳥打は意味がわかったらしく、青い顔をサッと青くしたようであった。黒い中折れをふり返って云った。
「君はいいから行き給え」
黒い中折れはペコペコお辞儀をして去った。あとを見送った青い鳥打は記者の方を向いた。
「おめえ、東京初めてか」
「……ヘエ……」
「こっちへ来い」
記者は随いて行った。
鳥打帽は馬道へ出た。交番の前で又記者をふり返ってギョロリと見た……それからがよくわからないが、焼け木の積んである横路地を二つ三つ抜けて、夕顔を絡ませた新しい板塀にぶつかった。その横の切り戸を開いて、又、横路地のような処をすこし行くと、長屋式の板壁の途中に小格子がたった一つあった。そこを開くとすぐ狭い梯子段で、それを上って洋式のドアーを開くと……。
意外にも立派なカフェーの二階に出た。前はどこか知らぬがかなり賑やかな通りである。