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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

「国許へ護送される途中ということだが、国許へいってからは、どうなる筈だったのか」

「永の預けということでした」と新八が答えた。

「これの主人も斬られた」と六郎兵衛が云った、「そこもとの兄と、ほかにも二人斬られたそうだ、陸奥守に放蕩をすすめたというかどで、いちどの糾明もなく、暗殺された、そして暗殺者は、上意討だと云ったそうだな」

「私は知りません」

「みやが自分で聞いたんだ」と六郎兵衛は云った。新八は屹とした顔で六郎兵衛を見た。

「私は信じません」と新八は云った、「もし本当にそう云ったとすれば詐称です、私は上意討などということは信じません」

「どうして」

「私は、私は知っているんです」

「なにを」

「それは、云えません」と新八は眼を伏せた。

六郎兵衛はじっと新八を見た。それから低い声で云った。

「江戸へ逃げ帰ったのは、そのためか」

「なんですか」

「兄の仇を討つためだろう」と六郎兵衛が云った。新八は躯を固くし、黙って顔をそむけた。

「相手は誰だ」

新八は答えなかった。

「私が云おうか」と六郎兵衛が云った、「兵部少輔宗勝、――違うか」

新八はぴくっとふるえた。兵部少輔宗勝。まさか六郎兵衛が知っていようとは予想もしなかったので、その名を云われたときは、心のなかを見透されたように思った。