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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

「そこまでやる必要があるだろうか」

「私はどちらでもいい」と甲斐は云った、「なんども云うとおり、私はこういうことは好かない、一ノ関さまの陰謀にしても、その陰謀に対抗する、こんどの計画にしても、私にとっては興味もなし、むしろ迷惑なくらいだ、私は誰にもかかわりなしに、そっとしておいてもらいたいのだ」

「それは本心か」と周防が反問した。

「松山には本心が云える」

「ではなぜ、板倉侯のところへいった」と周防が云った、「そういうやりかたを好まないなら、すすんで板倉侯に会い、継嗣問題に助力をたのんだのはなぜだ」

「誤解しないでくれ」と甲斐は苦笑した、「あれはただ茶に招かれただけだ、まえから七十郎が板倉侯の知遇を得ている関係で、新らしい席が出来たから来い、という伝言を下すった」

「忍んで来いとか」

「忍んでゆくものか、私が板倉侯を訪ねたことは、一ノ関さまのほうにもとっくにわかっている、松山がいまそんなことを云うのはおかしいくらいだ」

「わかった、それはそうとしよう」周防は云った、「では船岡はこの問題から手をひきたいというのか」

「ひいてよければだ」

「よければ手をひくか」と周防はつめ寄った。