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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

客は定っていなかった。原田は「筋目」といって、国老になる家柄であり、柴田郡船岡で四千二百石ほどの館主である。つまり重臣のひとりだから、つきあいもひろいが、甲斐は誰にも好かれていた。

甲斐には敵がなかった。彼は自分ではあまり口をきかず、人の話を聞くほうであった。いつも穏やかで、感情を表にあらわさないし、乱暴な動作や、高い声をだすようなことも稀にしかなかった。甲斐と対坐していると、人はなごやかな、ゆったりとした気分になり、心のなかを残らずうちあけたくなる。どんな秘密なことを話してもこの人なら大丈夫だ、という気持になるらしい。そして、それがたしかであることは、すでに誰でもよく知っていた。

それが「朝粥の会」によくあらわれた。

客はさまざまであった。重臣たちも多いが、身分の軽い者も少なくなかった。甲斐はどちらとも公平につきあった。身分によって態度や言葉つきを変えるようなことは決してなかった。重臣たちのあいだには、いろいろな事情で、仲のよくない者や、反目しあっている者があり、ふだんは出会っても顔をそむけるか、すぐ口論になるかするのであるが、そんな人たちでも、ふしぎに「朝粥の会」