轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

「まあ、雪でございますわ」と宇乃が云った。

甲斐はそちらへ振向いた。曇り日の、ひっそりと暗い庭に、こまかな雪が舞っていた。甲斐は虎之助を見た。彼は眠っていた。

「坊が寒いからお閉め」と甲斐が云った。

宇乃は「はい」といって、廊下へ出て、あとを閉めた。甲斐は虎之助の寝顔を、じっと眺めていた。おまえは仏門にはいるんだ、お坊さんになるんだよ、と甲斐は心のなかで云った。そんな幼ない年で、いちどに両親に死なれるという、悲しみを経験した、私にはその悲しみがわかるんだ坊、私はおまえより小さいとき、五つの年に父に死なれた、私には母があったし、所領もあり、家従もおおぜいいた、けれども、父のない淋しさがどんなものか、いまでもよく覚えている。

私は父に死なれただけだが、おまえと宇乃は両親に死なれた。家もなく、たよる親族もない。幼ないおまえにも、どんなにこころぼそく、どんなに悲しいかは私にわかる、と甲斐は心のなかで云った。――けれどもそれで終るのではない、世の中に生きてゆけば、もっと大きな苦しみや、もっと辛い、深い悲しみや、絶望を味わわなければならない。生きることには、よろこびもある。