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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

しかし、男の子はこのままではいけないのだ」と甲斐は云った、「虎之助に畑の家名を続けさせようとすると、どうしてもまた危険が伴う、それで、私は出家させたいと思うのだが」

宇乃は黙って甲斐を見ていた。

「出家すれば俗世の因縁も切れるし、非業に亡くなられた両親の供養もできる、そのほうがいいとは思わないか」

宇乃はそっと眼を伏せた。

「それとも、出家させるのはいやか」

「いいえ」と宇乃は眼をあげて云った、「そうするほうがよいと仰しゃるのでしたら、そのようにお願いしたいと思います」

「つぎにおまえのことだが」と甲斐はつづけた、「弟が八歳になるまでは、此処にいて世話をしてやるがいい、それからあとは、私の国の船岡へひきとるつもりだ、江戸にいては、いろいろと面倒なことが多い――両親を討ったものが誰だかということも、いつかはわかることだろうし」

宇乃の眼がきつく光った。甲斐はその眼に気づいて、そのきつい光をなだめるように、やさしく、ゆっくりと頷いた。

「この話しはあとにしよう」と甲斐は云った、「いまはまず、二人が無事に生きてゆくことを考えればいい、そのほかのことはすべてあとのはなしだ、わかるな」