轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
帽子はやはり右手にわしづかみにしたままである。
次郎はだまって馬田の近づいて来るのを見ていた。馬田は、次郎から二三歩のところで立ちどまったが、その左肩はまだつき出したままだった。
「用がないからって知らん顔するのは失敬じゃないか。」
次郎は返事をする代りに、穴のあくほど馬田の顔を見つめた。馬田は、その眼に出っくわすと、ちょっとたじろいたふうだったが、口だけは元気よく、
「失敬だとは思わんのか。」
次郎は、それでも返事をしない。視線はやはり馬田の眼に一直線に注がれたままである。
馬田も、それっきり口をきかなかった。二人は、かなり永いこと、にらみあったまま突っ立っていた。次郎が視線も手足も微動もさせなかったのに反して、馬田の視線はたえず波うっており、その手足はいつももじもじと動いていた。
馬田の視線がとうとう横にそれた。同時に、「ふふん」とあざけるような息が彼の鼻をもれた。
次郎は、それでも一心に彼の顔を見つめていたが、急に、何と思ったか、くるりと向きをかえ、彼を置き去りにして、すたすたと歩き出した。
松の木の間をもるひっそりした日ざしの中に、砂地をふむ靴音がざくざくと異様に高くひびいた。