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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
」と言ったことにはじまるらしい。上下からおしっけたような顔に、大きな眼玉がぎろりととび出し、耳まで割れたような口が、ものを言うたびにぱくぱくと開くところなど、なるほど、生徒が蟇を見て少佐を連想したのに無理はなさそうである。
少佐は、はいって来るとすぐ、視線を次郎にそそいだ。次郎はその時まで、まだ立ったままでいたのである。それから、つかつかと教壇に上り、座長席の田上を見おろしてたずねた。
「今何か話をしていたのは誰だったかね。」
「僕です。」
田上が答えるまえに次郎が答えた。
「ああ、君か。君は本田だったね。」
「そうです。」
「君は今、約束を守れとかしきりに言っていたようだが、その約束というのは何かね。」
次郎は答えなかった。答えてわるい約束ではないと思ったが、答えれば、自然、ストライキ主張者のことを言わなければならないと思ったからである。
「先生に言っては悪いような約束かね。」
曾根少佐は相手から眼をそらして上眼をつかい、ぱちぱちまばたきをしながらたずねた。これは少佐が生徒を糺問する時におりおり見せる表情で、少佐自身では、それで自分の顔付が非常に和らいで見えると思っているらしいのである。