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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

それが今日はとくべつはっきりと感じられたのである。

二人は、その時間ぶっとおしで、相手をかえずに戦った。稽古やめの合図があった時には、さすがに二人ともへとへとにつかれていた。

二人は、汗みずくになった剣道着をぬぎ、柔道場に通ずる廊下の横に設けてあるシャワーでからだを洗うと、すがすがしい気持になって、いっしょに校門を出た。大山の満月のような顔が、すこし赤味をおびて光っていた。次郎の眼には、それがいかにもゆたかで新鮮だった。

「きょうはいい稽古になったよ。」

歩きながら次郎が言った。

「しかし、つかれたね。ぶっとおしだもの。」

大山が笑いながら答えた。

「君に面をとられると、ぼうっとなるほど痛いが、しかしあのぐらい痛いと却って気持がいいね。」

「そうか。」と、大山は間がぬけたように答えたが、

「君の小手も痛いね。それによくはいるよ。きょうは三対一ぐらいだったかも知れん。」

「そんなことはないだろう。」

次郎は否定しながらも、自信はあった。少くとも二対一ぐらいの差はたしかにあったと思った。しかし、その自信は、彼にとって決して愉快な自信ではなかった。小手取りの名人、――そう考えると、それがそのまま自分の弱点のような気がしたのである。