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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

彼の気持は、また少しずつかげりはじめた。かげりはじめると、きょうの不愉快な出来ごとがつぎつぎに思い出された。曾根少佐のこと、馬田のこと、そして何よりも朝倉先生の送別式について何の掲示も出ていなかったこと。

彼は、曾根少佐や馬田のことを、大山に話す気には少しもなれなかった。しかし、朝倉先生の送別式のことだけは、思い出すと、どうしても默っていられなかった。

「きょうの掲示、君は変だとは思わなかった?」

「掲示? 朝倉先生のあれかい。」

「うむ、いつもは送別式のこともいっしょに出るんだろう。」

「そうだね――」

と、大山は首をかしげたが、

「うむ、いつもは出るようだ。」

「今度はどうして出ないんだろう。」

「さあ、どうしてだかね。たぶん、まだ日がきまっていないんじゃないかな。」

さっき掲示台のまえで生徒の一人が答えたのと同じ答えだった。次郎は、しかし、今度は大山を低能だとは思わなかった。大山を低能だと思うまえに、自分だけが無用に学校を疑っているんではないか、と思った。誰も何とも思っていないのに、自分だけがどうしてこうも疑うのか。そう思ったとたん、ふたたび彼の頭に浮かんで来たのは、運命という言葉であった。