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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

「奥さんでいらっしゃいますか。」

と、朝倉夫人が座ぶとんをすべって初対面のあいさつをしたが、くどくない、要領のいいあいさつだった。

夫人のあいさつがすんだあとで、先生もあいさつした。

「ご主人には始終ご厄介になっています。きょうは大変お手数をかけまして。」

そう言ったきりだった。

お芳は二人のあいさつに対して、「はい」とか「いいえ」とか「どうぞ」とか言うだけで、自分からはほとんど口をきかなかった。しかし、べつにまごついているようなふうでもなかった。かなり日にやけた頬に、例の大きなえくぼが柔かいかげを作っているのが、先生夫妻の眼には、いかにも素朴にうつった。

あいさつがすむと、もう古くからの知りあいででもあるかのような気安さが、二組の夫婦の間に流れていた。

「すぐおビールにいたしましょうか、よく冷えていますけれど。」

お芳が言った。

「うむ。奥さんにはサイダーをね。……しかし、先生、ちょっと汗をおふきになりませんか。風呂はわかしておりませんが、井戸端で行水でも。」

俊亮が言うと、

「そう。では、ちょっと失礼します。しかし、井戸端より川の方がいいんです。」

朝倉先生は、袴をぬぐと、ひとりで表の方に出て行った。