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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

彼らは、もうさっきからそれをふりまわして、兵隊でも送る時のようにはしゃいでいた。それが彼を一層さびしくさせた。彼は、自分が小旗を用意しなかったことを悔む気になど少しもなれなかった。しんみりと、落ちついて、ふかく物を考えながら先生を見送りたい。彼はそんな気持で一ぱいだった。

きっかり三時。あと五分。先生ももう歩廊に出られたにちがいない。そう思って彼は上りの歩廊に眼を走らせた。しかし、そこは彼の位置からはかなり遠かった。ただ手荷物をさげた沢山の人がこみあっているのが見えるだけだった。

まもなく列車がすべりこんだ。上りの歩廊は、その列車のかげにかくれて、もうまるで見えない。機関車が威圧するようにこちらをにらんで、大きな息をはいている。

彼は、その機関車に眼をすえているうちに、ふと、もうこのまま先生と視線をあわす機会がないのではないか、という気がした。むろん先生は、車窓から顔を出して生徒たちにあいさつされるにちがいない。だから、自分の方から先生のお顔が見えることはたしかである。しかし、それだけでは物足りない。先生にも自分の方を見てもらいたいのだ。それは何も、自分がここで先生を見おくっているのを認めてもらいたいためではない。