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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
けれども、次郎の眼は一心にそれを追った。
最後に次郎は、男の顔とも女の顔とも見わけのつかない二つの顔が、線路のゆるやかなカーヴのうえで次第にかすめ取られ、ついに全く消えうせたのを見た。
彼は、それでも、まだ、茫然として列車のあとを見おくっていた。帽子と手拭とをにぎっていた彼の両手は、もう、だらりと柵の上にたれていた。
彼が柵をおりたのは、列挙が町はずれの小さな鉄橋を渡りおえて全くその影を没してから、大方二分近くもたったあとのことであった。
生徒たちの群は、もうその時にはほとんど散っていた。そして、がらんとなった空地に、配属将校の曾根少佐が、四五人の生徒を相手に何か立ち話をしていた。次郎は見たくないものを見たような気がした。それは、生徒の一人が馬田だということに気がついたからであった。
曾根少佐は馬田たちと話しながら、眼だけはたえず次郎の方に注いでいるらしかった。次郎は、まだその時まで左手ににぎったままでいた手拭を、あらためて腰にさげ、帽子をかぶって、服装をととのえたあと、曾根少佐の方に近づいて挙手の礼をした。少佐はすぐに答礼したが、いつもの歯をむき出したあいそ笑いはしなかった。