轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

と、誰に云うでもなく寝言のようにつぶやいたが、

「ほんに、いやな雨でございます」

と、お春も思わず立ち止まって、

「―――お危うございます、お気をお付け遊ばして、―――」

と、そう云いながら彼の覚束ない足もとへ明りを向けた。その時彼女のうしろを塗り潰している濃い闇の中で、一陣の風が羽ばたきのようにすうッと空を切ったけはいがして、不意に彼女が

「あっ」

と云いさま、雪洞を床に落した。

「られら?」

その瞬間、織部正は闇の奥に黒い塊のようなものが動いたのを、チラと見て取った気がした。人?―――怪物?―――幻覚?―――落ちた拍子に燈火が消えて、全くの暗黒に包まれた彼は、自分の網膜に残った映像が果して実在の物の影であったか、それとも半眠半醒の酔眼がありとしもない夢魔を描いたのか、………だがそれにしてはお春があれきり口を利かないのが変なので、

「春! ろうしたのら?」

と、もう一遍闇に声を投げてみた。

「―――ろうしたのら? られかいるのか?―――」

「と、と、とのさま!………は、は、はやく、………はやく、………」

それは確かにお春の声に違いなかった。しかし何者かに口を塞がれ、咽喉を絞められつゝも、懸命に抵抗しているように、今にも呼吸が詰まりそうに云うのであった。