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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
返す返す惜しい事だ。――御内方、御内方』
『はい……』
墨江は行燈をそこへ持って来て、客の間に坐った。
『もう少々、お燗けいたしましょうか』
『いやもう酒は充分。……酒どころじゃないその……金子の方さ。五十両ぐらい、何とか調わんものかなあ』
『私も、心を砕いておりますが』
『心を砕くとは……それは家の中にいて思案している事じゃござらぬか。あははは、あんた方御夫婦は、まるで内裏雛みたいに、貧乏しながら超然と澄まし込んでいるからいけない。――金を作るには、もっと、面の皮を厚うして、世間へ実際にぶつかって、嫌な思いも、気位も、捨ててかからにゃあ出来はせん』
『そう私も、良人へ申しているのでございますが』
『平田氏の性格では出来まいなあ。こういう際には、やはり女の内助の力に待つほかないて』
『……そのわたくしが、意気地がないので、お恥しゅうございます』
『儘になるなら、自分は退いてもよいから、平田氏を三十三間堂へ立たせてみたいが、実は手前も、明日の晩、頼母子講の金を競り落して、それを懐中にして立とうというあぶない算段……うまく落ちてくれればよいが、さもないと』
半分独り言のように云いながら伏原半蔵は、眼の隅から墨江を見て、