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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

日晒しの茎を、八針に裂き、其を又、幾針にも裂く。郎女の物言わぬまなざしが、じっと若人たちの手もとをまもって居る。果ては、刀自も言い出した。

私も、績みましょう。

績みに績み、又績みに績んだ。藕糸のまるがせが、日に日に殖えて、廬堂の中に、次第に高く積まれて行った。

もう今日は、みな月に入る日じゃの――。

暦の事を言われて、刀自はぎょっとした。ほんに、今日こそ、氷室の朔日じゃ。そう思う下から歯の根のあわぬような悪感を覚えた。大昔から、暦は聖の与る道と考えて来た。其で、男女は唯、長老の言うがままに、時の来又去った事を教わって、村や、家の行事を進めて行くばかりであった。だから、教えぬに日月を語ることは、極めて聡い人の事として居た頃である。愈々魂をとり戻されたのか、と瞻りながら、はらはらして居る乳母であった。唯、郎女は復、秋分の日の近づいて来て居ることを、心にと言うよりは、身の内に、そくそくと感じ初めて居たのである。蓮は、池のも、田居のも、極度に長けて、莟の大きくふくらんだのも、見え出した。婢女は、今が刈りしおだ、と教えたので、若人たちは、皆手も足も泥にして、又田に立ち暮す日が続いた。