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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
三
時の更け過ぎた事が、彼等の心には、現実にひしひしと、感じられ出したのだろう。
もう此でよい。戻ろうや。
よかろ よかろ。
皆は、鬘をほどき、杖を棄てた白衣の修道者、と言うだけの姿になった。
だがの。皆も知ってようが、このお塚は、由緒深い、気のおける処ゆえ、もう一度、魂ごいをしておくまいか。
長老の語と共に、修道者たちは、再魂呼いの行を初めたのである。
こう こう こう。
おお……。
異様な声を出すものだ、と初めは誰も、自分らの中の一人を疑い、其でも変に、おじけづいた心を持ちかけていた。も一度、
こう こう こう。
其時、塚穴の深い奥から、冰りきった、而も今息を吹き返したばかりの声が、明らかに和したのである。
おおう……。
九人の心は、ばらばらの九人の心々であった。からだも亦ちりぢりに、山田谷へ、竹内谷へ、大阪越えへ、又当麻路へ、峰にちぎれた白い雲のように、消えてしまった。
唯畳まった山と、谷とに響いて、一つの声ばかりがする。
おおう……。
三
万法蔵院の北の山陰に、昔から小な庵室があった。昔からと言うのは、村人がすべて、そう信じて居たのである。荒廃すれば繕い繕いして、人は住まぬ廬に、孔雀明王像が据えてあった。