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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
目をあげると、東の方春日の杜は、谷陰になって、ここからは見えぬが、御蓋山・高円山一帯、頂が晴れて、すばらしい春日和になって居た。
あきらめがさせるのどけさなのだ、とすぐ気がついた。でも、彼の心のふさぎのむしは迹を潜めて、唯、まるで今歩いているのが、大日本平城京の土ではなく、大唐長安の大道の様な錯覚の起って来るのが押えきれなかった。此馬がもっと、毛並みのよい純白の馬で、跨って居る自身も亦、若々しい二十代の貴公子の気がして来る。神々から引きついで来た、重苦しい家の歴史だの、夥しい数の氏人などから、すっかり截り離されて、自由な空にかけって居る自分ででもあるような、豊かな心持ちが、暫らくは払っても払っても、消えて行かなかった。
おれは若くもなし。第一、海東の大日本人である。おれには、憂鬱な家職が、ひしひしと、肩のつまるほどかかって居るのだ。こんなことを考えて見ると、寂しくてはかない気もするが、すぐに其は、自身と関係のないことのように、心は饒わしく和らいで来て、為方がなかった。
おい、汝たち。大伴氏上家も、築土垣を引き廻そうかな。
とんでもないことを仰せられます。