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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
広い端山の群った先は、白い砂の光る河原だ。目の下遠く続いた、輝く大佩帯は、石川である。その南北に渉っている長い光りの筋が、北の端で急に広がって見えるのは、凡河内の邑のあたりであろう。其へ、山間を出たばかりの堅塩川―大和川―が落ちあって居るのだ。そこから、乾の方へ、光りを照り返す平面が、幾つも列って見えるのは、日下江・永瀬江・難波江などの水面であろう。
寂かな夜である。やがて鶏鳴近い山の姿は、一様に露に濡れたように、しっとりとして静まって居る。谷にちらちらする雪のような輝きは、目の下の山田谷に多い、小桜の遅れ咲きである。
一本の路が、真直に通っている。二上山の男岳・女岳の間から、急に降って来るのである。難波から飛鳥の都への古い間道なので、日によっては、昼は相応な人通りがある。道は白々と広く、夜目には、芝草の蔓って居るのすら見える。当麻路である。一降りして又、大降りにかかろうとする処が、中だるみに、やや坦くなっていた。梢の尖った栢の木の森。半世紀を経た位の木ぶりが、一様に揃って見える。月の光りも薄い木陰全体が、勾配を背負って造られた円塚であった。月は、瞬きもせずに照し、山々は、深くを閉じている。