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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

しかし国許に送金するというような稼ぎも出来ないので小夜子は十六と十二になる弟妹を残して、幾何かの前借で、さきに申したカフェー・パローマに住み込んだので、パローマに来てから春一にはじめて会うまで六カ月位だったそうです。小夜子にとっては、パローマが始めての勤店で、他のカフェーには行ったことは無かったのでした。

こんな次第で小夜子は一人で働かなければならなかったのですが、兄の清吉という男は妹がカフェーに勤めてからちょいちょい来て会っていたらしく、また小夜子の方でも何んといっても兄妹のことですから兄は兄として、気持の上では頼りにして居たのでした。ただ、清吉は運転手になってから身持がよくなく、酒は呑むし手なぐさみはするというので、小夜子の主人は無論余り清吉をよく思っていなかったようです。

恋愛事件についてはともかくも、小夜子の性質は甚だ意志が強く、感情が烈しく可なり勝気の方だったようです。さて話を元にかえしますが、小夜子は春一に捨てられかけたと知るや否や、烈しい抗議を提出しました。無論春一に対してです。詳しい話は証拠が無いから判りませんが、残している手紙によると可なり烈しい態度を取っております。