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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

彼女は何故電話を利用しなかったでしょうか。今の世の中に、相手の家に電話がある限り、急用を速達便に託す必要がどこにあるでしょう。恐らく、仮りに電話をかけても春一が電話に出ないようになっていたにちがいありませんが、小夜子がもしほんとうに男に復讐する気があれば電話を利用して、須山家の誰とでも話が出来たはずではありませんか。彼女がこの挙に出なかったことは立派に彼女が女らしさを保っていた証拠であります。

あの不幸が起った当日、彼ら二人が郊外で何を語ったかということは勿論彼ら以外に知るものはありません。然し金の請求は勿論うそです。春一が持参した五百円は、あなたが法廷で指摘された通り正に男のトリックに過ぎません。

あなたは被告に、殺意はなかったといわれましたけれど、何が故に彼に殺意がなかったといわれるのです。あなたは法律家であるから、そう窮屈に考えなければならないのかも知れませぬが、私は自由に考えることが出来ます。

被告人に殺人の動機が認められぬといわれるのでしょう。成ほど被告がいった通り、ことを大きくすることは損でしたろう。しかし殺人をして殺人罪にならず、しかもそれに代えて何ものかを得るということは考えられぬことではありません。