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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
出来得べくんば女が怒るところを見せたかったのです。しかして彼はその技巧にまんまと成功しました。
須山春一は処女をさんざん弄んで然る後これを殺し、なお且つ執行猶予になる技巧をもっていたのです。あわよくば無罪になろう、とするらしいのです。
あなたは「それなら何故あの当時お前が出て来てくれなかったか。何故それだけの意見を述べなかったか」と申されるでしょう。
私はその愚かさを嗤わねばなりません。
世に法律ほど危険なものはありません、一旦用いそこなったが最後いつ如何なる方法で逆手に出て来るか判らないのです。
私は無頼の徒です。折紙つきの無頼漢です。賭博の前科もあります。この私が証人となってかりにあなた方の前に現われたとして、果してどの位の効果があるでしょう。そうして私は被害者の肉身の兄です。彼女の利益をいうことは当然だとされるでしょう。しかも私は、自ら証人として立った所で一つも具体的事実についてのべることは出来ないのですから、あの弁護士らの巧みな手段にひっかかってどんな目にあわされないとも限らないです。
私は既にあの当時から法律を信じませんでした。それで甚だ不本意ながら、暫らく行方を晦していたわけなのです。