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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
十
十
私をしてほんとうに或る計画を実行することに決心せしめたのは、あの公判廷の空気でした。私はあの時ひそかに傍聴人の間にまじっていたのです。
私は今更、ここに又あの不愉快極まりなき法廷の有様をのべることを避けましょう。
然し私はそこで何を見、何を聞かねばならなかったか。
私は曾て或る小説家が、刑事事件の被害者の肉身の立場から、犯人が易々として死についたことをきいて憤慨し、抗議書を出すという小説を読んだことがあります。
けれど私の場合はもっともっとひどいのですよ。
私は犯人が罪を免るるを見ました。(執行猶予なら無罪も同然です)
そうして私は、さんざん飜弄された揚句、惨殺された少女を、あくまでも罵詈し、攻撃するのを聞かなければなりませんでした。
あなたは自分の妹が殺された上、更に法廷において、その妹がさんざんに辱しめられ――恐らくは墓石も悲憤の涙で慄えるであろうような讒謗と捏造とを浴びせられているのを、目の前に聞いていなければならぬ肉身の気もちを一度でも想像したことがありますか。しかもその侮辱の目的は悪人を許さんがためなのです。しかしてそれが被告人を弁護する職業にある弁護士の口から出たものであるとはいえ、国家の判決がそれを容れているのです。