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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
そうして誰にも怪しまれずとうとうT線に乗じ今は日本の端の港に来ています。
この手紙をあなたに向って出すと同時に、私は直ちに船に乗って日本を離れます。
とりあえずS港に向けて出発し、それからは足の向く儘に諸国をまわるつもりでおります。
私は長々と叙述をして来ましたが、最後に一つあなたに、弁護士たるあなたに対して、特にお願いがあるのです。
私は恐らくは捕縛されないでしょう。しかしもし私が捕まったら是非共、あなたの御尽力を煩わしたいのです。
私は殺人罪を犯しました。しかしどこに殺人という証拠がありますか?
成程、私が小夜子の兄だという事が判れば其処に動機は見い出せるでしょう。
けれど動機だけをもって証拠に出来ない事は、無論法律家たるあなたの知っておられるところでしょう。もし私が捕まったらこう答えるつもりです。
「私は真に申訳ない事ですがつい好きだものですから、××楼で大分酒を呑みました。それが悪かったのです。自分では大丈夫と思ってもやはり酔が出て来たものと見え、途中で大分調子が狂ってしまいました。今から考えるとどうも車に故障があったらしいのですが、酔っていたためか気がつきませんでした。