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すいちゅうのきゅうでん
水中の宮殿
野村 胡堂
「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页
生か死か――水を潜る三人
「そんなことは出来ないワ」
燿子は驚いて兄の首っ玉にブラ下ります、ここまでたどり着いた艱難をもう一度くり返すのも大変ですが、それよりも、引返したところで、他に抜道がありそうもなかったのです。
「でも、このままは進めないぜ」
健一ほどの者も、隧道一杯に奔騰する水は、どうすることも出来ません。
「あれは何でしょう? ――水の中にほんの少し薄明が射しているんじゃないでしょうか」
綾子は健一の腕を引張って、今まで進んでいた行手の方の水を見せました。
「おかしいね」
水肌へすれすれに眼を持って行くと、行手の水の中に、薄青い光が、ほんの少しですが、ボーッと射しているのです。
「今晩は月があったかしら」
燿子はいきなり変なことを訊きます。
「満月は三日ばかり前だったから、今頃は月の出る頃かも知れないなア」と健一。
「それじゃ、きっと月の光よ、――ここは隧道の出口なんだわ、今まで知らずにいたけれど、――月が出て水に射したんで、あんなに薄明るくなったんじゃないかしら」
燿子は漸く素晴しい頭脳を働かせ始めました。
生か死か――水を潜る三人
「僕が行って見て来ようか」
健一はもう潜る仕度を始めました。