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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

茶を煎れたからと、この人を見知って以来、三年越し例しのない調子の軽さ、目賀田さま茶菓を賜わると、秋元の年代記へ特書せねばならぬほどの不思議に、女房は心裡でます/\疑って居たが、饒舌るを以て達弁とする隣室の五島に比べれば、口数は三分一にも足らぬが、沈黙家と評判の貞之進に似合ずぽつり/\と今夜に限って四方八面の浮世の沙汰、女房は隔意のある中にも解けて、いつか話が一昨日の鳴鳳楼の懇親会に及んだ時、東京は芸妓がたくさんな所だと貞之進が誘いかけたを、遊ぶ者も多い遊ばれる者も多い、そこが都ですと女房は何の気もなく釣込まれ、それでは先日の会は柳橋の連中で御在ましたか、あなたはあの方にはお気をお留なさいませぬがと云って、袋のまゝ置てある最中を一つ取って半分に破り、ほんとにあなたには亭主でも感心致して居りますと、こぼれた粉を払って居るに、それが貞之進の胸に徹って、顔を見られでもするように自然に背けた。

けれどそれは自分が咎めたまでゞ、ひとの知るはずがないのでまた許し、今もまず柳橋が一かと云えば、この人にない異な穿鑿と女房は貞之進の顔を看上げたが、これに答えるよりも我が見聞の広い