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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

十一

んと、こんなことが行手を遮って、吉川町の尽処までは車にも乗らなかった。

十一

不動と云ったは附たりで、小歌菩薩が約束の縁日、いずれ暮過のこととそのあくる日貞之進は、学校から帰って理髪床に用を足し、つゞいて一風呂という時小雨がぽつり/\遣って来て、男が全く作上った頃は、傘無しではとぼ出もできぬ中々の降となったが、その時の貞之進には雨風の見界いもなく、轍に泥を衝いて春泉へ馳着けると、小歌は疾くから来て待って居た。雨に出這入りがうるさいからと、その夜は二階の取次の座敷へあげられ、おや髪をお刈んなすって、道理で顔違いがするようでと小歌が打った槌へ大変御容子がと婢が調子を合せるを、貞之進はそれを世辞と知って世辞と知らず、大いに肚裡に笑まれる処があって、縁日は降りだねと云えば、こゝの縁日と云うと妙にツケが悪いのです、これでは御運動とも参りますまいと、それを捨言葉にして婢が立去った跡は、例もの通りの差向いで、昨日の今日では談話もなく、座敷は雨に鎖されていよ/\沈むばかり。小歌は床の間に在った梨地に亀甲形の蒔絵した硯箱を持出し、残りずくなに巻込んである