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あぶらじごく
油地獄
斎藤 緑雨
「国会新聞」1891(明治24)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页
十五
女が、もうちっとしたら貰えましょうと慰めるのも油になって、やゝ久しく無言で居たが、筆をと云うに女が硯筥を持来り、磨りましょうという下からもはや筆を溜り水に染めて、にじむも構わずさら/\と手紙を認め、これを春泉へ持たせてやり、小歌に逢って返詞を聞て来てくれと畳へ投出し、婢の後影を目送って自分で銚子へ手を懸けたが、貞之進が生れてから、手酌に二盃の酒を続け呑にしたことは、実にこの時が初めてだ。
十五
もちろん手紙とてもあえて深しい訳があるのではなく、ちょっとでもいゝから来て呉まいかとの意味で中へは「淀文にて目賀田」と記したが、上書にはただ「小歌さま」とあっただけのことだ。しばらくして婢はその手紙の封の破られたまゝ持って来て、たゞいま箱丁が帰って申しますには、春泉へ参って小歌さんを呼出して貰い、じかに渡しましたところお客さまはどなただとの尋ねだそうで、存じませぬと云うとこの手紙を披けて見て、どうぞ宜くと云って返したそうですから、お返詞はと重ねて尋ねましたら、返詞は入らない宜しくと云って下さればいゝとのことで御在ましたと、そうとは知らないあけすけな復命方に、貞之進の肚裡は一層二層三層倍に沸返って、突然その手紙を取って丸め、丸めた