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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

貞之進は去年からその都度通知を受けたが、まだ一度も出席したことがない。もっともそれが嫌だというのではなく、出京後日数が浅いのでとかく馴染がない、馴染がないから交際会へ出べきだとは知っても、何となく気おくれがするようで、それで今まで不参でおわって居たのだ。今歳は上田の人松本の人飯田の人、三五人の知己を得たので、これを頼みにぜひ出席しようとおもい、今朝新聞の広告を見て、会の開かれることをすでに承知して居た所へ、今又はがきが届いたので、貞之進はすぐさま筆を執って出席の由を幹事へあてゝ申入れた。

やがてその日が来た。幸い天気も好し、開会は遅れ勝とかねて聞いて居たが、なぜか今日は気が急くようで、ちと早いと思ったが寄路するつもりで、二時と云うにそろ/\支度を始めた。さすが豪富の伜と云われるだけ、衣服のたしなみもあるのかして、上着は宿の内儀に持が能いと勧められた茶縞の伏糸、下着は紬かと思われる鼠縞、羽織は黒の奉書にお里の知れた酸漿の三所紋、どういうはずか白足袋に穿かえ、机の上へ出しそろえて置いた財嚢手巾巻烟草入を、袂なりふところなりにそれ/″\分配し、戸棚の裡に隠されて居た