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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

身は、一日が半日、半日が一時でも行かずには居られない、二日目となれば出這入の勝手だけ分って、淀文の門口まで車で乗込み、小歌さんですかと婢が問うに、前日で仕た返詞が、すぐにと今日は口から出、三日目は向うから問ぬ先に、小歌をと命令けるほどになって、小歌が隔ての垣のだん/\取れるに随い、寡いながら、心易く話が出来るようになった。

すると、いよ/\逢いたい、ます/\逢いたい、毎日毎晩離れっこ無しに逢いたい、それは自分が小歌の笑ましげな顔を見ることが、無上の楽みであると同時に、路花墻柳の芸妓の勤、どういう家へ今日は行ったか、どういう客に今日は聘れたか、もしその家にもしその客にと、底の底までつまらないことが気になって、それで一日も自分が逢ずには居られないのだ。よもや貞之進にそんな思惑があろうとは、同宿の悪太郎輩も心附かなんだが、秋元の女房は近来貞之進の帰宿が遅く、預りの金をことごとく請戻したことから、羽織帯小袖の注文石鹸香水の吟味が内々行われることを考え合せ、密かに目を注けてあやしんで居たものゝ、それでも単身柳橋の酒楼に馳向うとは夢にも思わなかった。