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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

城介はとうとう彼の顔を見なかった。

「これがあいつの見おさめかも知れない」

切ない思いで、彼は汽車を見送っていた。だんだん遠ざかり、しだいに小さくなる。すっかり姿を消した瞬間、彼は前のめりになりそうになって、かろうじて足を踏みしめた。汗がびっしょりと額にふき出して来た。

「この前君はくたびれて、うとうとしていたから、僕はそっと帰った」

私は言った。

「その時聞こうと思ったんだが、城介君がうどんの事件を起した時、喜びの気持が君の胸のどこかに動いていなかったかね?」

「なぜ?」

「城介君が退校となれば、君は大学までの学資を確保出来たわけだろう。幸太郎氏が二人の中の一人に学資を出してやる、という約束だった筈だね」

「約束はそうだった」

栄介はゆるゆると背を起した。

「しかし喜ぶ気持は全然なかった。君に兄弟あるかね」

「いるよ」

「兄弟で何か競争して、相手が失脚すると、うれしいような気持になるか」

「さあ」

私は口ごもった。

「そ、そんな立場に置かれたことがないから、よく判らない。すると君はやはり城介君を可哀そうだと思ったわけだね」

「それとも違う」

栄介はもじゃもじゃ髪を両手でかきながら、しばらく考えていた。