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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「台湾かも知れないよ」

「でも台湾じゃ戦争をやっていない。どうしても北方だな」

コーヒーを飲み終えると、二人は外に出た。地図をたよりに歩き出した。彼が覚えているのは、その町筋の暗さである。下関市民は早寝をする習慣があるのか、寒いので戸をしめ切っているのか、おそらく後者だったのだろう。三十分ぐらいかかって、その民家を探し当てた。軒の低い家並の中で、その建物はぬっと夜空にそびえていた。

「どうもここらしい」

城介は足をとめた。

「入って聞いて来るから、ちょっと待ってて呉れ」

くぐり戸から城介は入った。栄介は道の真中に佇って、その建物を観察した。酒粕のにおいが、かすかにただよっている。彼の小学校の友達に造酒業の伜がいて、二、三度その家に遊びに行ったことがある。その家や塀の感じが、暗がりではっきりしないけれども、ここと共通したところがあった。

「ははあ。造り酒屋なんだな」

彼は思った。

「杜氏の寝る部屋にでも泊らせられるのか。寒いだろうな」

やがて城介が出て来た。元のままの服装である。

「十時迄にこの宿舎に入ればいいそうだ。それまで遊ぼう」

「そりゃよかったな」

城介は建物を見上げ、その形を確認した。