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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
名ばかりの兄弟
本所割下水の露路の奥の、浪宅の裏縁に二十一、二の、美しいが凛々しい武家娘が、鞣した猫の皮を陽に干していた。
「お兄様ご覧なさりませ、この蚤どもの可愛らしいこと」
その娘はこういいながら、座敷の方へ眼をやった。
名ばかりの兄弟
「蚤ばかりではない、生きとし生けるもの、何んであろうと可愛いものでござる」
戸外の日光が部屋の中へ射し込み、古びた畳、古びた襖、黒光っている柱などを照らし、みすぼらしいながらも清掃されている様子を床の間に置いてある花瓶の花や、掛け物と一緒に浮き出させていた。
床の間を背に負い小机に倚り、思案に耽っていた鵜の丸兵庫は、笑ましげにそう云って娘の方を見た。
その娘の名は菊女といい、世間へは妹と称していたが、その実血統の方から云えば、全然関係のない他人なのであった。
とはいえ深い関係はあった。
勤王倒幕の同志としての。
鵜の丸兵庫は慶安三年に勤王思想を旗標として、多数の浪人を糾合し、徳川幕府を倒壊し、王政復古の実をあげようと、いわゆる慶安騒動を起こした、由井正雪の異母弟なのである。
そうして菊女は正雪の同志、熊谷三郎兵衛の妹なのである。