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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

数十匹も蠢めいていた。

いやらしい気味の悪い光景なのではあるが、その前に坐って眺めている菊女が、色白の細面、高い鼻の切れ長の眼、いかにも上品で美しい上に、着ている衣裳が水玉模様の単衣、清楚でしかも艶かしいので、いやらしい光景が緩和されて見えた。

「お兄様」と菊女は云った。「何をむずかしいお顔をして、考えておいでなされます」

「さあ」

と兵庫は微笑したが、

「うしろ斬りのあの難剣を、よくもあの時遁がれたものと、それについて考えているのでござる」

「入谷田圃でお逢いなされたという、浪人者のことでございますのね。……その男の使った難剣のこと?」

「さようさようその難剣でござる。……あの瞬間石につまずいて、自分から地上へ仆れたため、遁がれることが出来たものと、今にして思えば思われるものの、あの時はてっきり肩をやられたと、そう思って覚悟しましたっけ」

「その浪人何者でござりましょう」

「それについて今日まで探りましたが……」

「お解りになりまして?」

「解りませぬ」

ここで二人は沈黙した。

狭い裏庭の植え込みの楓へ、どこかから逃げて来たらしい、金糸鳥が留まって啼いていた。