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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

それにもう一つの考えもあった。

(この女とほんとうの恋仲となったら、この女も心許すであろう。その油断を見すまして、宥免状を人形の胸から、こっちの手へこっそり取ることが出来る)

「梶子殿」

と、とうとう云った。

「何んの否やなど……何んの何んの……その美しいあなた様に、そうまで云われて何んの拙者が……」

「おおそれでは妾の願いを……」

梶子は頬をパーッと燃やした。

「叶えて……きいて……それでは今夜……ではギューッとこの指を……三本の指で……あなた様の……」

「こうでござるかな、こうギューッと!」

三本の指へ力をこめ、民弥が握ろうとしたとたんに、隣室の間の襖の隅が、そっと開いて窺う者があった。

「や!」

「あれ!」

「誰かが!」と云って、民弥は思わず手を引いた。

が、もうその時には開いた襖が、向こう側から閉じられていた。

そうして誰かが忍びやかに立ち去る、急ぎ足の音がした。

二人は改めて顔を見合わせたが、

「たしかに何者か隣りの部屋で、たちぎきしたようでござりますな」

「はい、どうやらそんなようで……」

と、さすがにテレて恥ずかしそうに云った。

「宿の女中でございましょうよ」