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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

で、どうぞあなた様には、ここにいつまでもおとなしく――わたくしの帰って参りますまで、じっとしておいでなさりませ。たとえ誰が参りましても、決して声を出しませぬよう」

「ああ俺はおとなしくしているよ」

萩丸は素直にそう云ったが、その眼は涙でいっぱいであった。

「その代わり菊女や早く帰ってねえ」

「ハイハイ早くかえりますとも」

櫃へ蓋をして二階を下り、菊女は裏門の方へ行ってみた。

今にも門が破られようとしている。

(わたし一人が勢に加わって、戦ったところで仕方がない。……それより援兵を頼んで来よう)

こう菊女は考えた。

というのは恐らく兵庫も民弥も、敵の一手が屋敷へ殺到し、裏門を改めているということを、知らないでいるに相違ないと、そう感付いたからであった。

(兵庫様のもとへ走って行き、事情を告げて援兵を!)

見れば木立に数頭の馬がつながれ、四足をバタバタと動かしていた。

「よし」

というとその一頭を、木から放してくつわをとった。

土塀の一所に横門がある。

で、そこから乗り出そうとした。すると矢束を胸に抱えた、甚吉という老人が、母屋の方から走って来た。

「甚吉さーん」