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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
(これは駄目だ、追うのはやめよう)
こう思った時一頭の馬が、戦場から逸して走って来た。
「しめた」
というと、その馬を抑え、素早く三十郎は飛び乗った。
そうして菊女の後を追った。
距離がだんだん近くなった。
(はてな?)
と菊女は背後の方から、あたかも自分を追うかのような、馬の蹄の音がするので、不安を感じて振り返って見た。
と、一人の浪人らしい武士が、すぐの間近に迫って来ていた。
(敵か味方か?)
と見きわめようとした時、
「菊女殿!」
とその男が云った。
「どなたでございます?」
と菊女は訊いた。
「拙者は刃三十郎!」
「刃三十郎? 刃三十郎!」
菊女は何がなしにゾッとした。
三十郎といえば自分達の同志の、松浦民弥の親の敵であり、いつぞや自分と鵜の丸兵庫とが、かくれ住んでいる家へ忍び込み、自分たちの秘密をうかがったところから、自分たちが討って取ろうとしたのを、詭計をもって逃げた男で、自分たちにとっても敵である筈だ。
(が、どうしてその男が、こんな場合にこんな所に?)
菊女は瞬間行動に迷った。
と、三十郎が嘲笑うように云った。
「いつぞやは馳走にあずかりましたな、剣のご馳走というやつに! ……江戸は本所のそなたたちの住居で! ……今日こそご馳走のお返しじゃ! ……拙者に従いておいでなされ!」