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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
と、眉の太い男が云いながら、三十郎の方へ頤をしゃくった。
三十郎はいたたまれなくなって、飲み料を払って戸外へ出た。
と、眉の太い男が云った。
「彼奴ちょっと怪しいの」
「さよう」
と段鼻の男が応じた。
「頭巾でハッキリ見えなかったが、どうやら顔に痣のようなものが……」
「後をつけて行って誰何してみよう」
四人同時に立ち上がり、代を払って戸外へ出た。
変装した藩の武士たちであった。
十数間の向こうを三十郎は、懐手をし首を垂れ、物案じ顔に歩いていた。
(明暦義党の奴ばらも、どうやら困っているらしい)
これは三十郎には痛快であったが、紀州藩の若い武士が、変装までして狙っている、このことは三十郎には辛かった。
(辻斬りもソロソロやめなければなるまい)
しかしその後の生活は、何んとしたらよいだろう?
このことを思うと不安であった。
(が、今夜だけは幸福になれる!)
そう、菊女が攫われて来る! それを自由にして欲望をとげる! これは幸福に相違なかった。
ふと不安を感じて来た。
で、そっと振り返って見た。
居酒屋にいた四人の男が、揃って背後から歩いて来た。
(やはりな、そうだったか)