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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

――と、この時咳の声がし、

「水野大炊にござりますが……」

と、錆びた声が隣室から聞こえて来た。

「大炊頭殿で、さあさあずっと」

と、姉小路卿は気軽に云った。

紀伊家の重臣水野大炊頭は、もうかなりの老年で、鬢の毛など白かった。

部屋へはいるとつつましく坐り、

「これはこれは梶子殿にも」

こう云って如才なく会釈をし、

「ご殿でのお住居いかがでござりまするな?」

「まことに結構、極楽のようで」

と、まず姉小路卿が道化た調子で云った。

すると梶子も負けていない口調で、

「ノビノビとしておりまして、天国のようにござります」

と云った。

「でも」

と梶子は云いついだ。

「時々自由にご殿の外、お城下見物が出来ましたら、申しぶんのう存ぜられます」

「その儀でござるよ」

と大炊頭は云った。

「もう今夜よりお二人様には、自由にどこへなりとお運びくだされましても、よろしいようになりましたので」

「ははあそれは何より重畳」

と姉小路卿は嬉しそうに云った。

「随分蟄居させられましたからのう」

「お気の毒に存じまする」

「ご馳走ぜめにされたのじゃから、不平を云うことも出来ぬがのう」

姉小路卿は微笑しいしい、