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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「ナニ熊谷三郎兵衛の……」
「はい妹にござります」
「でははなからこのわしを惑わし? ……」
「はい惑わしておびきよせ、宥免状是が非でも書かせようと……」
「憎い女め! おのれがおのれが!」
「憎くばお斬りなさりませ! ……があくまでも宥免状は……」
「書かぬ! 何んの、何んの書こうぞ!」
「お書きなされねばまた虫部屋へ……」
「厭だ厭だ助けてくれ!」
萩丸は恐怖を眼に現わし、やにわに菊女へ縋ったが、
「憎い女め、宥免状は書かぬ! ……厭だ厭だ虫部屋へは厭だ! ……菊女よ菊女よ、わしはお前を! ……おおおおおお、わしは好きじゃ! ……そなたが好きじゃそなたが好きじゃ! ……そなたのためなら何んでもやる! ……書こう宥免状、書こう書こう!」
「それでこそいとしい萩丸様、わたしの萩丸様にござります! ……さあこの筆で、さあこの紙へ! ……」
備えてあった硯箱から、筆を取り上げ墨を含ませ、菊女は萩丸へ渡したが、つづいて料紙を突きつけた。
「何と書くのじゃ、菊女菊女!」
一方には虫部屋の恐怖があり、一方には恋しい菊女がいる。
二つの間に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)まれた上に、気絶からよみがえった直後とあって、心身ともに衰弱しており、ほとんど意志は消耗していた。