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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「などと卑怯にお逃げなされても……」

「逃げますな、相手が悪い」

「え?」

「ホイ、これは、また失言!」

またもやポンと額を叩き、

「ざっとこの辺でご勘弁なされ。……でないとわしの禿げた額が、減って行きます、窪んで行きます」

また梶子は笑い出してしまった。

「そうまでおっしゃるならこの梶子、特別をもちまして姉小路様の失言、お許しすることにいたしましょうが、それに致しましてもご進物の品が人形――内裏雛とはお優しい。……ほんとにこれは恋の進物……」

「いけない、梶子殿、それに触れては……アッハッハッ、恋にふれては」

「ホッホッホッ、ようございます。……でも伊豆守様と簾子姫君様とが……」

「それも困る、もうお止めなされ」

「はいはいやめるでござりましょうよ」

こう云って来て梶子の胸に、一つの計画が突然浮かんだ。

「姉小路様」

と真面目に云った。

「…………」

姉小路卿は眼を瞠った。

「いっそ妾がその進物を、京都まで持参いたしましょう」

「ナニお前様が? 人形箱を?」

「持参いたすでござります」

「あなたも京都へおいでかな?」

「はい明後日参ります」

「…………」

「これが太刀とか鎧とか、そういう進物でございましたら、お武家様が警護して、お送りいたすももっともながら、やさしい内裏雛の恋の進物……いえいえ恋でなかろうと、お雛様の進物でありますのなら