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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

で、つけて来たのであった。

八ツ手の葉蔭にかくれながら、三十郎は耳を澄ましている。

三人の話はヒソヒソとしていて、聞きとることが困難であった。

それに指の先で畳の上へ、文字らしいものを書いたりして、ヒソヒソ話をするのでもあった。

と、突然民弥の声が、こうハッキリ云ったのが聞こえた。

「……では鵜の丸兵庫殿にも、明後日江戸をお立ちになり、紀州をさしておいでになる?」

「さよう」

と相手の武士の声が、それに答えて云うのが聞こえた。

「同志五十嵐右内殿を……紀伊殿江戸屋敷の手の者が警護し、明後日紀州へ護送するとのこと。……されば拙者後をつけ、途中において奪い取る所存……」

「妾もご一緒に参りますことに、話ととのいましてござります」

と、例の娘の云う声も聞こえた。

「ははあ、それでは菊女殿も」

民弥の云う声もきこえて来た。

「ただ――一緒とはいうものの、菊女殿には例の囮を……萩丸殿をお守りして……介抱してと云った方がよかろう……紀州へ行くという次第でござる」

「萩丸殿を紀州へ送る?」

民弥の声は驚いていた。

「それはいったいどういう事情で?」

「囮としてじゃ! ……こういう事情で……」