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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

また三人は畳の上へ、指で文字を書きはじめた。

三十郎はニヤリとした。

――それだけの会話を聞いたことによって、彼三十郎の知ったことといえば、入谷田圃で太刀を合わせた武士が、鵜の丸兵庫という武士だということと、萩丸を誘拐した美しい娘が、菊女という女だということと、明後日兵庫が江戸を立って、紀州に向かうということと、その目的が同志の一人を、奪い取ることだということと、そうして菊女という美しい娘が、萩丸君を介抱しながら、これも明後日江戸を立って、紀州へ向かうということと――大略こういうことであった。

(民弥をここまでつけて来て、何んという素晴らしい収穫を得たか!)

三十郎はゾクゾクした。

(図太くもっと忍んでいて、一切立ち聞きしてやろう)

こう思って彼はなおしばらく、八ツ手の葉蔭にかくれていた。

民弥の声が聞こえて来た。

「申し上げましたとおり江戸を立って、私も明後日京へ参ります。……と、我々三人の者が同日に旅へ出るという次第。……では旅の間何んとかいたして、互いに連絡とりたいもので。……」

「さようさようそれがよろしい」

鵜の丸兵庫がこう云った。

「では旅籠につきました時、こういたそうではございませんか」