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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

……いやまだまだもう一つある。さよう理由がもう一つある。……それとて拙者が善人で、かつ正義の士であったからで。……で、そのもう一つの理由というやつは……」

ヤケかそれとも策略あってか、三十郎は大地へ寝たまま、ペラペラとへらず口を叩くのであった。

「もう一つの理由というやつは、貴殿方が何やら悪事を企て、逃げかくれしているやつを、紀州藩士が追っかけ廻し、その結果あの時目つけ出し、捕えようとしているらしいと、そう思われたことでござって、拙者はあの際好きな女が、吉原に一人ありましたのでな、そこへ参ろうと差しかかったまでの、どっちにも恩怨ない身ではござったが、悪事を企てる人間へは、どうにも味方することは出来ぬ。――というのは拙者が善人で、かつ正義の士だからで。アッハッハッまことにさよう、拙者は正義の士でござるよ。……そこで紀州の藩士に味方し、貴殿に刃向かったというわけで。……どうやら拙者が刃向かっている間に、五十嵐氏とやらは紀州藩士に、とらえられたようでござりますなあ」

喋舌りながら八方へ眼をくばり、どうぞして一方の血路をひらき、逃げに行こうと三十郎は、工夫をこらしているのであった。