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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

ついには領事館に突き出してやる、といわれて私も心を決めた。

『それほどいうなら、この体で宿賃を払おうじゃないか』とっておきの切札である。番頭は引下がった。あとから西豪州の真珠貝取りにいってもらおうという。英人の経営で、年期をきって身を売るのだそうだ。それもよかろう。――しかし、その夜ふろにはいって、相ぶろの人に『あしたフランスメイルで西豪州へゆきますのや』と、得意顔でいうと相手は顔色を変えた。

『そりゃいかん! それはね英人にきびしく監視されて海底深くもぐり、貝をとってくるのだが、逃走を防ぐため一年ぐらいは陸にあげてもらえず、十人おれば三人は死ぬ仕事なんだよ』

これはえらいことになった。私は部屋に帰って考えた。どうにかこの場を切り開かなければならない。どうにか……と思いつめているうちに、私は自分がもう日本に帰る時期にきているのを感じた。『やってみよう』一種のカケである。私はわらでもつかむ気で、隣りの座敷の人買い男に頼んでみようと思いついた。人間は追いつめられるほど強くなれる。私は意を決して身づくろいすると、隣りの座敷のふすまに手をかけた。

人生再出発は元金十銭