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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

「おまえ馬に乗るか」

孝之助の挨拶が済むと、利秀はせっかちにそう訊いた。「乗るか」という質問は、その術に長じているか、という意味である。したがって孝之助は、不調法でございますと答えた。

「それは不心得ではないか」

利秀はよく考えもせずに怒った。

「たとえ親の代からの文官にもせよ、武士たる者が乗馬できぬという法はない、急に遠方へ使者に立つときなどはどうするか」

「おそれながら、お使者を勤めるくらいでございましたら」

「いや使者ではない、使者は使者、いいか、遠方へ大至急で往って来る使者、そうしたばあいには、ぽくぽく歩いてゆくわけにはまいらん、どうしたって馬でゆくのが常識であろう」

「おそれいります、そのくらいでございましたら乗ります」

利秀は拍子ぬけのした顔をした。

「それでは権現沢まで遠駆けをする、供を致せ」

こう云って性急に立った。

そんなふうに藩主と話したのは初めてである。おちつきのない、せっかちな人だと思った。また、なんで自分などに馬の相手をさせるのか見当もつかなかったが、あとで、(いや、まもなく)わかったところによると、利秀も乗馬は不得手なのである。小太刀と槍はどこまで事実かわからないがかなり練達しているし、三年まえから馬術を始め、江戸の中屋敷に馬場なども設けたが、このほうは性に合わないものか、どうしても上達