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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
五の二
という、現在の席に、一生とどまらなければならないかもしれない。それではやがて家計が逼迫してくる、というのは、交代世襲制の奉行職は、その職に就いている期間だけ、家禄と年俸と合わせた収入がある。退職ちゅうは年俸は与えられず、しかも家の格式は守らなければならない。要するに支出の面は変らないのに、収入が減るわけであって、次の任期までは、経済的にかなり苦しく、よほどひき緊めても、借財が残りがちであった。
父が倹約な人だったし、彼も律義之助などといわれるくらいで、現在のところはどうにかやってゆけるが、もしこのまま元方支配でいるとすると、早晩ゆき詰るのは明白であった。そこでさし当り、職制の改革にともなって、家の格式を食禄相当に直すこと、つまり格式上の負担を除いて貰う、ということを、退職した広松前奉行と相談のうえ、家老職まで願い出ることにした。
それは藩主が参覲のため出府する少しまえのことで、家老職は承諾し、その旨をすぐ藩主に通じたが、利秀は「考えておく」と、きげんの悪い顔で、答えただけであった。
五の二
藩主の江戸へ立つ日が迫った或る日、城中の長廊下で岡村八束に会った。